北海道洞爺湖G8サミットで領土問題は前進したか 北海道洞爺湖G8サミットは,ロシアの新大統領メドベージェフ氏にとって,最初の多国間外交の舞台となった。42歳の若さでサミットの 国際舞台に初参加したメドベージェフ大統領は、参加首脳の中で最も注目され、期間中10カ国首脳との個別会談もこなした(7日: 米独仏英、8日:日伊、9日:中国、インド、韓国、ブラジル)。 同氏はサミット期間中,マスコミに次のように語った。 *日本の18倍も非効率的とされるロシアのエネルギー利用のムダを改めたい。 *食料問題では,G8内に農相会合を設置し,「穀物サミット」の招集を呼びかけた。関連措置として,7月1日から自国小麦の 輸出関税を撤廃し,輸出を促進した。 *アフリカ諸国に対しては,旧ソ連時代以来の債権約160億ドルを放棄し,資金支援をした。 *米国のサブプライムローン問題に端を発した金融不安に対して,米ドルを中心にした準備通貨制度を見直し,ロシアのルーブルを含む 複数の準備通貨による多極的な通貨システムを構築する必要を提唱した。 *MD(ミサイル防衛)問題では結局,米国の妥協は取り付けられず,「対抗措置をとる」と語気を荒げた。 *プーチン前政権時代,元スパイ毒殺事件から相互の外交官追放合戦にまで発展した英国との関係については「お互いの妥協点を見出し, 相手に耳を傾ける姿勢がなければ何も生まれない」と述べた。 *コソボ問題では「静かな,バランスの取れた方針が必要」と述べた。 *ロシアの民主主義問題では「わが国の現状を美化するつもりはない」と西側の批判に配慮した。 *エネルギー分野ではOPECなどに代わる生産,消費,輸送に関係する各国の間で,協議メカニズムの構築が必要だと指摘したが, 具体的にどうするのか明らかでない。 *サミットの意義について「普通の外交ルートなら1カ月かかる話を首脳が一堂に会し、最もホットな話題について討議できる素晴らしい機会だ」と 感想を語った。 サミット期間中に,上述のように,メドベージェフ大統領は様々な意見・提案をおこなったが,実際に議長声明に反映されたのは農相会議だけであった。 G8への初登場ということもあり,プーチン氏と比較してまだ力量不足であることは否めない。 *日本にとって大きな関心事である,北方領土問題については,これまでとどのような違いがあるのだろうか。 サミット2日目(8日)に行われた日ロ首脳会談でそれを検討しよう。会談は約1時間10分だった。「ドミトリー」「ヤスオ」と両者は互いをファーストネームで 呼び合い,日ロ協調を演出した。 第一に「棚上げすることなく,出来るだけ早期にこの問題を解決する」と述べ,自分のイニシャチブでこの問題を解決するとの意欲を見せた。 第二に,「平和条約が存在しないことは(日ロ間の)支障になっている」,「領土問題を解決すれば両国の関係を最高水準に引上げることが できる」と述べ,この問題の解決が両国の関係の発展に大きな効果をもたらすとの考えを示した。 第三に,「過去に合意された原則」に基づいて,その解決のために努力を継続すると述べ,プーチン氏のように「56年宣言」だけを強調する事は なかった。ただし,会談では,「4島の帰属問題を解決して平和条約を締結する」と明記した93年の「東京宣言」には言及しなかったし,「過去 に合意された原則」が何を指すのかも言及しなかった。 第四に,両者はプーチン首相の年内訪日に合意し,この問題でのプーチン氏の影響力をメドベージェフ氏が自認した格好になった。 第五に,「生態系保存協力プログラム」を締結することで,北方領土を含むオホーツク海周辺の生態系保全で,共同研究に取組むこととなり, 日本側が環境を理由にこの地域に介入する条件ができることは,日本が重要な外交カードを握ったことになる。 第六に,領土返還運動に従事してきた関係者の評価は,「従来の繰り返しで何ら新しいものがない」というのと,「以前より柔軟で期待がもてる」 という意見に分かれた。 結論として,プーチン氏の対応と殆ど変化がない。メドベージェフ氏としてもプーチン氏より柔軟な対応策(4島を協議対象とする,残り2島を継続審議など) を打ち出せるほど,政治的権威が現在あるとは思えない。政府は,プーチン氏の訪日を取り付けるなど,プーチン氏との協議に賭けているようだ。    政財界の次の一手は,最近の空前の日ロ貿易の発展,東部地域での石油・ガス開発協力,環境技術協力,ロシアの対中外交での日本重視など, 外交・経済関係のレベルアップの中で,領土交渉を日本側に引き寄せる作戦だが,4島交渉にロシア側が乗ってくるとは思えない。「2島+アルファ」で 突破口を1日も早く開くことを再度提案したい。