三井は現在旅に出ています。
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今回はバングラデシュからのレポートをお送ります

■ アジア食糧危機・バングラデシュからの報告

 今、世界的な食料価格の上昇が大きな問題になっている。特に米価の高騰は、それを主食としているアジアの人々の生活を苦しくしている。

 バングラデシュで僕が目にしたのは、お米を求める人々が長蛇の列を作り、列の順番を巡って小競り合いを起こしている現場だった。
 人々は市場よりも安い政府価格米を求めて、早朝から販売所の前に並んでいた。中には3時間、4時間並ばないと手に入らないところもある。強い日差しが照りつける屋外で、押し合いへし合いしながら長時間待ち続けているので、殺気立っている人も多い。



「ちょっとあんた、横入りしないでよ!」
「なによ、あんたの方があとから来たんじゃないじゃないのさ!」
 言葉はわからなくても、表情と身振りから彼女たちの言っていることはだいたい理解できる。バングラ人の8割はムスリムである。ムスリム女性には、「あまり表に出ずに家庭を守る貞淑な女性」というイメージを抱きがちだが、とんでもない。バングラ人というのは男女関係なくやたら喧嘩っ早いのである。女だってときにはつかみ合いの喧嘩までやってしまう。だから販売所によっては警官が配備されているところもある。

 この販売所で買える政府価格米は、1キロあたり25タカ(38円)である。市場で買えるお米は最低でも1キロあたり32タカ(48円)するから2割ほど安いわけだ。
 ただしこの値段で買えるのは、一人あたり2キロまでと決まっている。だから子供を引き連れて列に並んでいる人も多い。頭数を増やせばその分多くの米が買えるからだ。
 販売所は週に三回開くのだが、政府からの割当量が尽きてしまえばその時点で販売を止めてしまうので、せっかく並んだのに無駄足になる人もいる。



「貧しい人にとっては7タカの差は大きいんですよ」と教えてくれたのはカリムさんである。「バングラ人の7割が貧しい農民です。農村の労働者の日給は100タカから150タカぐらいです。それも毎日仕事があるとは限らない。限られたお金で家族を養っていかなくてはいけないんですよ」

 バングラデシュではこの半年間でお米の値段が50%も上がったという。
 日本でも去年末あたりから食品値上げの動きが広がっているが、その値上げ幅が家計に与える影響はバングラデシュとは比較にならないほど小さいものだ。家計の中の食費の占める割合(いわゆるエンゲル係数)が70%を超えるというバングラデシュの貧困層にとって、10円の違いはまさに死活問題なのである。

 バングラデシュでお米の値段が上がり続けているのには、いくつかの理由がある。
 まずひとつは去年バングラデシュ南部を襲った大型サイクロンによる被害で、米の収穫量が大幅に落ち込んだことである。その不足分はインドやミャンマーなどの近隣国からの輸入に頼らざるを得ないのだが、その輸入米が国際相場の高騰によって高くなっているというのがふたつめの理由である。米価の高騰は世界的な米需要の伸びと、原油高が大きく影響している。
 季節的な理由もある。バングラデシュでは一年で二度お米を収穫することができるのだが、4月後半から5月にかけて行われる乾季の収穫前には、国内の在庫が空になるので、毎年のように米が値上がりするという。

 僕にとって驚きだったのは、バングラデシュが米輸入国であるという事実だった。
 バングラデシュ全土をバイクで走り回ってみて感じたのは、「何と豊かな国土なんだろう」ということだった。どこを走っても、ひたすら水田が続いているのである。鮮やかな緑色の絨毯が、まるで海のように広がっているのだ。
 起伏のない平坦な国土、いくつもの大河から供給される豊富な水、温暖な気候。どれをとっても米の栽培に適している。実際、バングラデシュの米の生産量は世界でもトップクラスであり(世界第4位)、生産量も年々増加している。それなのに米不足だというのである。なぜなのか?

「人が多すぎるんですよ」と再びカリムさん。「お米はたくさん取れますけど、それを食べる人間も多いですからね。『緑の革命』でとれるお米の量は二倍に増えた。でも人口はそれ以上に増えた。しかもまだ増え続けている。どうしようもありませんよ。いっそのことダッカに原子爆弾でも落としたらさっぱりするんですけどね。アハハ、これはもちろん冗談ですけどね」

 人口問題。結局はそこに行き着くのである。
 バングラデシュの人口は1億5千万人。それだけの数の人間が日本の三分の一ほどの広さの土地に住んでいるのである。シンガポールなどの都市国家を別にすれば、世界でももっとも人口密度の高い国なのだ。
 とにかく人が多い。そして今なお増え続けている。都市部では子供の数も少なくなってきているが、農村部ではまだ多い。5人6人きょうだいが当たり前なのである。このままだと2050年には2億5000万人に達するだろうという予測もある。空恐ろしい数である。

 国土が広がらない以上、バングラデシュに残された選択肢はあまり多くはない。人口抑制策を地道に続ける一方で、米の収穫量を増やす努力を続けるしかない。そうしないと、今の米騒動よりももっとひどい事態に陥るに違いない。
 残念ながら、魔法のような解決法はどこにもないのである。




この他のバングラデシュの写真はブログ「バタフライ・ライフ」でご覧ください。





 旅写真家。1974年、京都市生まれ。
 機械メーカーでエンジニアとして2年間働いた後退社し、2000年12月から10ヶ月に渡ってユーラシア大陸一周の旅に出る。
 帰国後立ち上げたホームページ「たびそら」が「@niftyホームページグランプリ2002」で準グランプリを受賞し、2003年12月に初の写真集「アジアの瞳」を出版。
 2004年からは「旅写真家」としてアジアを中心に旅と撮影を続けながら、執筆や講演などを行っている。
 2005年9月には2冊目の著作「素顔のアジア」を出版。
 2006年8月には「美少女の輝き」「子供たちの笑顔」の二冊の写真集を同時出版。
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