吉川医薬経済レポート 2008年2月号[フォーカス]
『どこへ行く!医薬品産業』を読んで
最近刊行された次の本がある.北原秀猛,井上良一,保高英児『どこへ行く!医薬品産業−勝ち残りの戦略ロジック−』 2008年1月,(株)ユートシャルム発行,319ページ
帯封に「業界プロフェッショナル3人トリオの共著」とあるように,斯界のオピニオン・リーダー3人の共同作業によって,日本の医薬品産業がおかれた現状に鋭く迫り,今後の展望を明快に示唆しておられる.3部構成でそれぞれ分担執筆しておられる.
第I部 激変する医薬品産業を取り巻く環境とその対応戦略(北原秀猛氏執筆)
第II部 立ち枯れゆく日本の医薬品産業とその対応戦略(井上良一氏執筆)
第III部 ''規模から質へ''転換期迎えた医薬品流通と卸経営(保高英児氏執筆)北原秀猛氏は,優れた医薬品産業コンサルティング企業であるユート・ブレーンの創始者である.かって毎年年初に医薬品産業の現状・課題・展望に関する総合的著書を刊行され,経営企画部門のバイブルと称された.現在もユート・ブレーンの年頭セミナーでの講演は定評があり,ご活躍中である.まさに,斯界のパイオニアであることは,ご高承のとおりである.
2008年から始まる医療制度改革とグローバルな医薬品市場の環境変化が過去にない大変化を強いるであろうとの問題意識から第I部を執筆しておられる.何時もながらの羨ましいばかり豊富なデータを駆使して制度面,医療機関,保健薬局,医薬品企業,医薬品卸の経営実態を分析し,今後の指針を示唆しておられる.特に例を一つを取り上げるならば,巷間いわれている保健薬局の経営が薬価差で成り立っていることをデータで明快に実証しておられ,構造不況業種の仲間入りしたと評されている.
井上良一氏は,企業退職後独立して医薬品企業に関してコンサルティングをしておられる.医薬品企業はビジネス・モデルをイノベーションする必要があるとつとに提言しておられる.前著『日本医薬品企業の構造改革』(2002年刊行)は今日では,日本企業の将来を考える者にとって古典的名著と言っても過言ではない.
前著刊行後5年有余,大型企業合併,外資の進出,ジェネリックの拡大など医薬品企業環境は大きく変化した.これらの変化を踏まえての今回の著書である.しかし,「立ち枯れゆく医薬品産業」と述べておられるのは,日本企業の前途に並々ならぬ危機感を表現されたものと推測する.
医薬品産業は,疾病構造の変化とともに転換期を迎える.第1期は感染症の時代,第2期は生活習慣病の時代,第3期はハイテク・ニッチとQOLの時代であると述べておられる.欧米企業が転換期にマッチしたビジネス・モデルへの転換を着々と進めるなかで,日本企業の立ち遅れの甚だしさを憂えておられる.豊富な実例の提示は読むものにとって説得性が高いと思う.
保高英児氏は,企業退職後サプライチェーン ロジスティクス研究会を立ち上げられた方と伺っている.月刊ミクス(現在のMonthlyミクス)に「医薬品流通フロンティア」の連載を開始された頃,医薬品の流通経路の科学的分析に目を瞠る思いをしたことを思いだす.この分野のパイオニア的リーダーと拝察している.
07年3月『ここまで来た医薬品流通改革』という著書を刊行されたということである.今回の著書は07年に入ってからも続く大きな変化・変革やその予兆も対象にしつつ,07年の年次総括への挑戦として書かれたということである.事例研究8例を挙げて規模の経営から質が問われる経営へと卸の経営戦略転換の必要性を説き,終章で「たそがれ」とならないための卸の7つの課題を提示しておられる.卸機能について知識の少ない者にとっても総括的に問題点を把握できる.
ともすれば,過去の成功体験に溺れて新しい潮流に乗り遅れる経営者・ベテラン層,また,ともすれば,基盤となる知識・技能が不足のまま,新しいものに飛びつく中堅層・若い層,日本医薬品業界にはそうした傾向がないとはいえない.失礼を顧みずに申し上げると本書の3人の著者の方々は豊富な実務経験をお持ちになったうえ,常に新しい潮流の実体をいち早く摂取され,目利きを働かせてこられた方ばかりである.それだけに説得性に富んだ書物といえよう.
日常の業務の中で流れてくる情報から,なんとなく解っているつもりの業界動向,しかし,それらは断片的なものが多い.本書は医薬品産業を支えている基盤に関する総合的・総括的提言をされたものと思う.日常の断片的情報を本書に照らしてみるとき,その情報の座標軸における位置付けが可能になり,意味を適格に認識でき,また巧緻な判断が可能になるであろう.
本書は,そうした意味で,経営陣から第一線の社員まで座右の一書とすべき好著といえよう.
(2008.01.21.執筆YPC)
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