2008年3月3日発行

1ランク上の保険と資産運用の話(第126号)

「運用成果は資産配分によってその9割が決まる」というウソ

Determinants of Portfolio Performance II

「運用成果は資産配分によってその9割(91%)が決まります。だから、資産配分をしっかり考えましょう。なんといっても、その9割が資産配分で決まるわけですから、資産配分さえ正しくやれば大丈夫です」とアドバイスするファイナンシャル・プランナーが散見される。
もちろんご本人は、その背景にある理論をご存知で、さらに深い洞察を加えた上で、要約して説明されているのだろうが、少し投資家に対してミスリードであると思われる。そこで、この9割の話の理論的な背景から、再度、分析してみようと思う。

『9割の話』が有名になったのは、私の知る限りでは、「Determinants of Portfolio Performance II」という論文(以下「本論分」という)からである。本論文は、Financial Analysts Journalに1991年に掲載されたものである。

本論文では、1977年から1987年までの10年間、アメリカの代表的な82の大手年金基金のデータを下に分析している。冒頭に、「投資方針は平均すると四半期ごとのトータルリターンの変動の91.5%を説明する」と書いてある。おそらくこれが、『9割の話』の出所であり、ミスリードの始まりである。

要因分析

ところで、この論文の重要性は『9割の話』にあるのではない。図1に示すように、後のパフォーマンス要因分析(Attribution Analysis)の基礎を提示したことにその意義はある。

パフォーマンス要因分析とは、アクティブ運用が超過収益を発生させる要因を、「資産配分(Asset Allocation)」と「銘柄選択(Security Selection)」に分解して、それぞれがどの程度、超過収益に寄与したのかを測定する方法である。

ここで、資産配分とは、ある資産クラスにオーバーウェイト、アンダーウェイトの意思決定をすることである。図2の例では、株式に対してオーバーウェイト(+10%)、債券に対してアンダーウェイト(-10%)している。

もし、株式のパフォーマンスが想定していたもの(ベンチマーク)以上であれば、株式にオーバーウェイとしていたことは正しい投資判断であったということになる。これが資産配分効果である。

同じように、株式の投資ウェイトの中身を細分化してみる。図3の例では、株式とはトヨタ、日産、ホンダの各銘柄を均等に保有することが基本(パッシブ)になっている。

もし、実際のファンドが、図3の例のように、トヨタと日産にオーバーウェイトしていたと考えよう。

投資の結果、もし、ホンダの株式がトヨタや日産の株式よりパフォーマンスがよかった場合、この投資判断は間違っていたことになる。これが銘柄選択効果である。

図1 要因分析の概念

要因分析の概念

図2 資産配分と銘柄選択の説明

資産配分と銘柄選択の説明

資産配分効果と銘柄選択効果の関係は、簿記の棚卸しの概念と似ている。棚卸しの処理では、1個あたりの帳簿上の価格と時価(評価単価)の差異を「評価損」として認識する。そして、帳簿上の個数と実際の個数が一致しなければ、その差異を「減耗損」として処理する。図3に示すような概念になっているが、考え方としては要因分析も同じである。

図3 考え方の比較

考え方の比較

91.5%の内容

本論文で使用されているデータは1977年からの10年間というかなり古いデータになっている。そして、資産配分を計算する上で想定されている資産クラスは、「株式」「債券」「キャッシュ」の3つだけである。「株式」も「債券」も米国内のものが対象であり国際分散投資を前提にしたものではない。

図4 91.5%の内容

本論文では、対象とした期間の、株式と債券そしてキャッシュの比率が平均するとあまり変動していないことを示している。概ね株式6割、債券3割そしてキャッシュ1割というのがその比率である。このウェイトで構成されたものをパッシブ(ベンチマーク)ポートフォリオと位置づけている。

パッシブポートフォリオから計算されたリターンがパッシブリターンである。図1でベンチマークのパフォーマンスと書かれた部分である。このリターンを使って、実際のファンドのパフォーマンスを推定したのが本論文の分析である。どの程度推定できたか、その決定係数を求めて見ると91.5%であったというのが結論である。『9割の話』の内容はこのようなものである。

本論文の分析の結果をどのように考えるかは人によって異なるが、次の点を確認しておきたい。

  1. 採用されている資産クラスは米国株式、米国債券およびキャッシュのみであり、国際分散投資を前提にしたものではない
  2. ベンチマークポートフォリオは、年金基金の実際のウェイトの平均として計算されたものを使用している。実際のベンチマークではない

Does Asset Allocation Policy Explain 40,90 or 100 Percent of Performance?

2000年のFinancial Analyst JournalにRoger Ibbotson氏の「Does Asset Allocation Policy Explain 40,90 or 100 Percent of Performance?」という論文(以下「Ibbotson論文」という)が掲載された。

ここでは本論文を引用しながら、本論文は「資産配分によってポートフォリオのリターンのどの程度が説明されるのか?」という問いには何も答えていないと指摘して新たな分析が加えられている。Ibbotson論文では「何も答えていない」と指摘しているが、どの部分をもって何も答えていないのかは明らかにしていない。

Ibbotson論文の改善点は、

である。

表1 資産クラスとベンチマーク比率

資産クラス

ベンチマーク

平均比率

大型米国株

CRSP1-2ポートフォリオ

37.4%

小型米国株

CRSP6-8ポートフォリオ

12.2%

外国株式

MSCIヨーロッパ/オーストラリア/極東指数

2.1%

米国債券

リーマンブラザーズ総合債券指数

35.2%

キャッシュ

30日T-bill

13.2%

Ibbotson論文の分析は次のような計算結果に基づいている。

eq1

eq2

上記から、ポートフォリオiの実際のリターン(TRi)とベンチマークのリターン(PRi)が計算される。

そして、eq5(ベンチマークによる説明割合)を算出するという手順である。

Ibbotson論文では、このベンチマークによる説明割合が平均するとほぼ100%になると指摘している。原題に含まれる「100 Percent」とはこの100%を指している。

ポートフォリオのパフォーマンスは資産配分で決まるのか?

これまで振り返ってきた本論文もIbbotson論文も、ベンチマークのリターンを計算し、そのリターンとポートフォリオのリターンを比較してきた。そして、それぞれ、ベンチマークリターンがポートフォリオのリターンを説明できる割合は91.5%と100%であると結論付けてきた。

ファイナンシャル・プランナーなどは、この結論を基に、「ファンドのリターンの大半は資産配分によって決まります」と説明している。これは正しいのであろうか?

私は、本論文もIbbotson論文も貴重な研究成果であると思料するが、その結果をもって「ファンドのリターンの大半は資産配分によって決まる」と主張するのは間違いであると考える。

その理由は実際のポートフォリオの運用にある。公募型のファンドであってもポートフォリオの運用担当者には一定の制約が課せられているのが一般的である。たとえば、「ベンチマークとのトラッキングエラーを4%に抑える」というような制約が一般的である。

たとえば、ポートフォリオとベンチマークのリスク(標準偏差)がともに20%の場合で、トラッキングエラーが4.0%であった場合を考えよう。

eq

計算してみるとポートフォリオとベンチマークの相関は98%になることがわかる。Brison式で表現するのであれば、「ポートフォリオのリターンのうち98%は資産配分により導かれている」ということになるが、ここで考えたのはそういうことではない。原因と結果が逆転しているということである。

因果関係に基づく説明

一般的に運用会社や年金基金では、ベンチマークを定めてそのベンチマークと実際の運用結果が大きく乖離しないようなルール(mandate)が決められています。その結果、実際の運用成果と目標とするベンチマークの騰落率の相関は高くなっています。

したがって、ポートフォリオとベンチマークの相関が高くなっていることは、運用担当者がそのルールを遵守していることを証明しているに過ぎません。パフォーマンスの評価というより、リスク管理が適正に行われていることを証明しています。

 

図5 因果関係を間違えた結論

因果関係を間違えた結論

本論文は要因分析のフレームワークを提供してくれた貴重な論文である。また、Ibbotson論文も本論文に付加的な分析を加えた貴重な論文である。ただし、いずれの論文も、「資産配分を決めることによって将来の運用成果の9割が決まる」といっているわけではない。「9割ないし10割が説明された」といっているのである。

つまり、「運用成果は資産配分によってその9割が決まる」ということが証明されているわけではない。

 

参考文献

  • Brison, Gray P. et al: Determinants of Portfolio Performance, Financial Analysts Journal / Jan.-Feb. 1985

  • -- :Determinants of Portfolio Performance II: An Update, Financial Analysts Journal / May-Jun. 1994

  • Ibbotson, Roger G. and Paul D. Kaplan: Does Asset Allocation Policy Explain 40,90 or 100 Percent of Performance?, Financial Analysts Journal 2000

  • Sharpe, William F.: Asset Allocation: Management Style and Performance Measurement, Journal of Portfolio Management / winter 1992

  • Karnosky. Denis S. and Brian D. Singer: Global Asset Management and Performance Attribution, Blackwell Publishers Inc., Massachusetts, 2000

編集後記

最近、多くのところでアセットアロケーション(資産配分)の重要性を訴える人がいますが、どうも正しく説明(理解)している人がいないのではないかと思っていました。

他人が言っているからといってそのことを引用するしかできないのであれば最初から話さないほうがよい。何も情報を持ち合わせていない一般の投資家はどのように感じるでしょうか?

アセットアロケーションの重要性はほかのところにあると思います。本文でも書きましたが、アセットアロケーションが運用成果の9割を決めているのではありません。アクティブ運用においても、ベンチマークとの乖離幅を限定しながら運用しているのです。結果を原因と見誤るとおかしなことになります。

バームスコーポレーション 杉山

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