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■ 「終わらない戦い」スリランカ東部からのレポート(3) ■
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翌日の空は、昨日の雨が嘘のように、ぱりっと晴れ上がっていた。さんさんと降り注ぐ太陽のもと、僕はトリンコマリーからさらに北に向けてバイクを走らせることにした。
トリンコマリーよりも北にある密林地帯は、LTTEと政府軍との力が拮抗しており、頻繁に戦闘が行われているので、外国人は立ち入れないという話だった。しかしどこまでが非戦闘地域で、どこからが戦闘地域なのかがよくわからない。わからないのだから、実際に自分の目で確かめようと思ったのである。
僕が乗るバイクは、スリランカ南部にあるヒッカドゥアという町で借りたものだった。ヒッカドゥアは美しい砂浜とダイビングスポットがあるスリランカでも有数のリゾート地で、メインストリート沿いには外国人旅行者向けの安宿や土産物屋が延々と並んでいた。その中にバイクを貸してくれる店があったのである。
僕が借りたのはインド製のスクーターだった。ギアチェンジの必要もなく誰もが自転車感覚で乗れるものだが、排気量は90ccあるので、パワー的には十分だった。
このスクーター型バイクの唯一の難点は、未舗装の道に弱いことだった。あくまでも町乗り用として作られたものなので、タフな条件には不向きなのである。
スリランカは比較的道路の整備が進んでいる国なので、普通の道を走っている分にはまったく問題なかった。しかしトリンコマリーよりも北の道は、進めば進むほどコンディションが悪くなっていき、ついには穴ぼこだらけのひどい悪路が続くようになったのである。
「外国人はこの先には進めない」
スリランカ軍の兵士にそう言って止められたのは、そんな未舗装のでこぼこ道を苦労しながら進んだ先にあるクッチャヴェリという村だった。トリンコマリーから35キロほど北に位置する小さな集落である。
「この先は政府軍がLTTEと戦っている場所だ。昼間はそれほど危険じゃないが、夜になるとあちこちで戦闘が起きている」
ブッディガという名前の兵士は、僕にそう説明した。
この先は危険――そう言われた場所は、しかしとても静かだった。静かすぎると言ってもいいぐらいだった。道には人通りがなく、車もほとんど通らないし、浜辺にも船はなかった。銃声が聞こえるわけではないし、兵士を乗せたトラックが行き来しているわけでもない。
「もともとここに住んでいた住民の多くは、戦闘が始まってから他の土地に避難しているんだ」
とブッディガは言う。夜な夜な撃ち合いが行われているようなところで、落ち着いて暮らせるわけがないのだ。つまりこの村の静けさは、ここが危険と隣り合わせであることを証明しているのだった。
「でも今行われているオペレーションが終われば、住民たちも戻ってくるだろう。我々には海軍と陸軍と空軍がある。陸軍はジャングルでの戦闘を担当している。空軍は空からの爆撃と支援、海軍は海上を警戒している。三つの力(フォース)が協力して作戦にあたれば、すぐにLTTEを全滅させられる。今のところ作戦は順調だ。あと半年で終わると思う」
もちろん一介の兵士が軍の公式見解以上のことを外国人に気軽に話すはずはないし、彼が全体の戦況を把握しているとは思えないから、「あと半年で終わる」という話は眉に唾をつけて聞いておくべきものだった。
それに仮に半年後に戦闘が終わったとしても、住民たちがすぐに戻ってくるとは考えにくかった。トリンコマリー周辺に住むタミル人の多くが、この数年の間にインド南部に逃げ出したという話を聞いていたからだ。お金もなく、パスポートも持たない人々が、どうやってインドに渡ったのか不思議に思って聞いてみると、「船を使うんだ」と言われた。ブローカーに9000ルピー(9000円)の運賃を払うと、インドへ渡る船をアレンジしてくれるというのだ。
しかし、スリランカとインドとの間の海域は、スリランカ海軍の巡視艇によって厳重な監視体制が敷かれているはずであり(海軍はLTTEがインドから武器の供給を受けることをもっとも懸念しているのだ)、普通に考えれば不法難民が通れるはずはない。ところがここにも「抜け穴」が用意されていて、海軍に1人あたり2000ルピーの通行料(という名の賄賂)を払えば通してくれるのだという。この海上ルートを通じて、既に12万人ものタミル人がインドへ渡ったという話だった。
クッチャヴェリ周辺では、兵士たちが草むらにクマデのような道具を突き刺している姿を見かけた。おそらくLTTEによって仕掛けられた爆弾がないか探っているのだろう。円盤形の地雷探知機を持った兵士もいた。銃声こそ聞こえなかったが、ここが十分に危険な土地であることは兵士たちの様子からうかがい知ることができた。
トリンコマリーの町では、何人かの兵士と話をすることができた。彼らの多くは片言の英語しか話せなかったので、突っ込んだことを聞くのは難しかったが、彼らは珍しい外国人に対してとてもフレンドリーだった。
検問所に立つチャンドラという名前の海軍兵士は、しきりにスリランカ女性との結婚を勧めてくるのだった。33歳でまだ結婚していないのはおかしい。相手がいないんだったら、俺が紹介してあげよう。彼女も同じ兵士で、英語だって話せるんだ。遠慮しなくてもいい。すぐそこにいるから呼んできてあげよう・・・そんな風にまるでお見合いおばさんのような強引さで、その女性兵士と引き合わせようとするのだった。
クマラという名前の陸軍兵士は、恋人との結婚話がなかなか進まないのだとこぼした。
「恋人は故郷のキャンディーにいるんだ。俺はもう30歳だし、今すぐにでも結婚したいんだけど、彼女の両親が許してくれないんだ。もし俺がこの戦争で死ぬことになったら、後に残された娘はどうなるんだって心配しているんだよ。そうならないとは俺には約束できないからね。一度、LTTEの迫撃砲に当たって怪我をしたことがあるんだ。そのときは3ヶ月病院に入っていたけど、今はもう大丈夫さ」
クマラはズボンをまくって、右足のふくらはぎに残る傷を見せてくれた。まだ完治したばかりなのか、その傷はとても生々しかった。
「大統領は『今年の10月までにこの戦いは終わる』と言っている。戦いが終わったら、俺も結婚できるだろう。もちろんそうなると信じているよ。俺たちは三交代制なんだ。6時間任務に就いてから、12時間の待機に入る。また6時間働く。その繰り返しさ。次の勤務は夜中の2時から朝の8時までなんだ。もちろん夜の方が大変だよ。とても神経を使う。早く休暇が来ないかって、そればかり考えているよ。恋人に会える日が、今から待ち遠しいんだ」
銃を持って町中に立っている兵士たちは威圧的に見えるし、実際にタミル人の住民たちにとっては脅威そのものである。いつ自分がLTTEのメンバーであるという疑いをかけられて殺されるかわからない。そういう潜在的な恐怖を語ってくれたのがロドリゴさんだった。
しかし一人一人の兵士の素顔は、ごく普通のスリランカ人の若者と少しも変わるところがなかった。陽気でにこやかで、恋人のことを想い、この戦いが一日も早く終わって欲しいと願っている。
そんな彼らが引き金を引く瞬間がある。弾丸が飛び交い、多くの血が流され、その流れた血が新たな憎しみを生み出すことになる。
なぜ戦いが終わらないのか。なぜ殺し合わなければいけないのか。その問いに答えるのは簡単なことではない。20年の歴史が事態をあまりにもややこしくしてしまっているからだ。
僕は「まもなく戦争が終わる」というスリランカ政府の楽観的な見通しは、早晩行き詰まることになると予想している。南部に住むシンハラ人の多くはこの戦いを支持し、政府の方針に賛成している。しかし一部の心あるシンハラ人は、政府の見通しが「政治的トーク」だということを見抜いている。ロドリゴさんも言ったように、テロリストを殲滅させるのは現実には不可能だからだ。
戦いがすぐに終わらなければ、やがて相次ぐテロと、物価高と、経済の行き詰まりに対する不満があちこちから噴出するようになり、政府は批判にさらされるだろう。LTTEはそれを待っているに違いない。
見通しは決して明るいものではない。これからも混乱は続くだろう。
それがスリランカという国が今置かれている状況である。
これでスリランカからの特別レポートは終わりです。
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 トリンコマリーの町で検問を行っていた兵士。 雨が降っていても、もちろん任務が休みになるわけではない。 重いレインコートを着込んで、通りを行き交う車を一台一台チェックする。 兵士たちは6時間の勤務と12時間の待機を繰り返しているという。
 漁の終わった浜辺で、子供たちが釣り糸を投げていた。 半分遊び、半分は将来の漁の練習でもあるのだろう。
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