小説「愛は6の感性」(43) 高田裕一 著

前号までのあらすじ
あらすじ
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「K」と呼ばれる店にはクラシック音 楽のコレクションがあり、彼はいつも愛着のあ る席に座る。
一年半ほど前に、彼は「K」でけい 子と知り合い、親しくなるが不本意な別れ方を する。帰り道にある「スナック」でルミに出会 い、その部屋に通うようになる。
「K」でけい子邂逅し、その部屋を訪れると、 ルミについて詰問された。
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彼はずっとルミに付きまとっていたケンという 男に脅された。
彼はルミの肉体については知っている。一方、 けい子の存在は「6の感性」で感じていたのだ 。
けい子が結婚することを聞き、花嫁を奪う計画 を立てる。結婚式の前日、ルミに別れを告げよ うとする。


錯覚

キョウという女の笑顔と会話、そして時々瞳か ら発せられる煌きが、愛からではなく営業用で あると頭では解っているが、いつの間にか両者 が混同されていた。
酔いが進むにつれ、暗めの照明も手伝って、目 の前で微笑んでいる別の女が、彼にはけい子に 見えてきていた。自分で意識せずに、
「ケイコさん!」
を連発していた。
最初は、
「お店ではキョウです。本名を言われると、恥 ずかしいような変な感じです」
と、ちょっと抗議するような口調だったが、次 第に、積極的に受け入れる訳ではないが、拒否 するのでもないような態度に変化していた。

いきなり黒服が現れて、声を掛けられた、
「お客様、後10分ほどでツータイムが終了で す。ご延長なさいますか?」
「もうワンタイム延長で」
「かしこまりました、ご指名は引き続きキョウ さんでよろしいですか?」
「うん」
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。や りたくない仕事を控えていると尚更である。

「前回、指名したもう1人は誰だったっけ?」
ルミの友達という女。その顔も名前も彼は覚え ていなかった。キョウという女は、ちょっと考 えてから答えた、
「確か、ケイちゃんだったと思います」
「そのケイちゃんを呼んで」
「先週で辞めました」
卑怯にも彼は、そのケイという女に、
「さよなら」
というルミへの伝言を頼もうとしたのだ。

サービスの行き届いた快適な場所にいて、けい 子とそっくりの女の接待で、美味い酒を飲みな がら、弾む会話を楽しんでいる。
こんな幸 せなひと時をぶち壊して、わざわざ暗く悲惨な 状況に飛び込んでいかなければならないという 現実から、逃避しようとしたのである。
しかしながら、彼の思いとは裏腹に、残酷な時 は一刻一刻と刻まれていった。

「お客様、後10分ほどで延長タイムが終了で す。閉店までまだワンタイムございますが、ご 延長なさいますか?」
黒服の恐怖の言葉が彼を襲った。時計は午後1 1時を回っている。ルミへの具体的な対応を考 える時間がなくなってきている。
「もうワンタイムお願いね」
キョウという源氏名の女が、くねくねと身体を 寄せながら彼の腕に手を廻し、営業丸出しの媚 を売り始めた。
「いや、帰る」
他に客はいない。その余りにも露骨な態度に、 彼は冷水を浴びせられたように興醒めし、現実 に引き戻されたのである。

商店街はまだまだ賑わっている。彼は何の方針 も立てられずに、「スナック」へ向かって歩い ている。最初にルミと入った寿司屋の前を通り がかった。
「そうだ、最後にもこの店で寿司を摘まもう」
と考えてみたものの、直ぐに思い直した。板前 を前に別れ話など出来るはずがない。
まして「スナック」でママや他の客のいるとこ ろで、修羅場を公開することなど有り得ないこ とだ。

彼は商店街を引き返し、一旦通り過ごした寿司 屋の角を曲がった。この道がルミのアパートへ の近道となるのだ。
一ブロックを過ぎると 、一挙に暗がりとなる。10分足らずで彼女の 部屋に着く。そこで待っていて、戸口で別れを 告げよう。言葉は単純明快に、
「別れよう」
の一言。理由は本当のことを言う訳には行かな い。彼女を傷つけないような適当な理由がない ものかと、彼は逡巡していた。

突然暗がりから男が飛び出してきて、彼の身体 に突き当たった。




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