小説「愛は6の感性」(40) 高田裕一 著

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あらすじ
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「K」と呼ばれる店にはクラシック音 楽のコレクションがあり、彼はいつも愛着のあ る席に座る。
一年半ほど前に、彼は「K」でけい 子と知り合い、親しくなるが不本意な別れ方を する。帰り道にある「スナック」でルミに出会 い、その部屋に通うようになる。
「K」でけい子邂逅し、その部屋を訪れると、 ルミについて詰問された。
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彼はずっとルミに付きまとっていたケンという 男に脅された。
彼はルミの肉体については知っている。一方、 けい子の存在は「6の感性」で感じていたのだ 。
ルミと会わないと決心した彼は、けい子が結婚 することを聞く。式場の教会へ行ってみると、 バッハのオルガン曲が流れていた。そこで牧師 に結婚式のパンフレットを貰った。


俗と聖

けい子の結婚。 式場を見学したことで、それまで抽象的だった ものが一挙に具現化していた。
××教会から貰ったパンフレットには、宗教施 設には似つかわしくない俗な物の数々が設けら れていた。それらが鮮明なカラー写真として並 べられていたのである。

美容室では、前壁の上半分に鏡が二面張られ、 下にカウンターのような台がある。その上には 細々とした化粧道具がきちんと整理されて並べ られている。
相向かいに対面した赤いレザ ーの肘掛け椅子が2客。花嫁は写っていないが 、小道具どもが生々しい女を息づいているのだ 。

着付け室の写真は、さらに衝撃を与える。
壁いっぱいの全面鏡の前に、ウエディング・ド レスを纏った花嫁の後姿。半透明の絹の光沢が 、女体を朧げに透かしている。係りの女性が長 いレースのベールを、結い上げられた頭髪に、 今まさに載せようとする瞬間のショットなのだ 。
斜め後ろ向きで俯(うつむ)いているた めに、花嫁の顔が直接にも、また鏡にも見えな いアングルである。そのことが否応なくけい子 を連想させるのだ。

「神に永遠の愛を誓う」
と題された式の写真は、完膚なきまでに彼を叩 きのめした。
中央の縦長の壁上部に十字架。その両側に赤と 青のモザイクで飾られたステンドグラスが、外 光を柔らかく取り込んでいる。

それを背景として祭壇上に1人の牧師が聖書を 携えて立っている。手前に純白の花嫁と黒服の 新郎の後姿。
花嫁はすでに完璧なまでにけ い子に成り切っていた。隣には頭から脚まで黒 尽くめの男。
以前に魘(うな)された夢の衝撃のシーンがま ざまざと蘇った。あまりのショックで、彼はし ばし呆然としていたが、衝動的にパンフレット のこのページを破り捨てていた。

ハラリ、と一枚の白い紙がカラーのパンフレッ トの間から零れ落ちた。拾い上げるとモノクロ の活字が印刷されている。

「式次第
迎賓新婦入場(ワーグナーの結婚行進曲)
賛美歌(賛美歌312番)
聖書朗読(コリント第一の手紙13章より)
式辞(キリストの愛)
誓約
指輪交換(モーツァルトのアヴェ・ヴェルム・ コルプス)
結婚証明書署名
祈り
結婚宣言
ベールアップ賛美歌(賛美歌430番)
祝祷
新郎・新婦退場(メンデルスゾーンの結婚行進曲 )」

天上の方からパイプオルガンの音、それは紛れ もなくバッハの音楽。
結婚式のための賛美 歌なのか、気高く清い調べがチャペル全体を覆 い尽くしている。鍵盤の前にはあの白い歯の女 性が、微笑を浮かべながら演奏している。
ステンドグラスからの光を受けて、けい子の白 い肌とウエディングドレスが多様な色彩を放っ ている。隣には相変わらず真っ黒な男が佇んで いる。
その男の正体を見極めようと、懸命 に目を凝らし近づいていくほどに、像がぼやけ て霧散してしまった。後に残ったのは、鮮明な けい子の微笑む姿だけ。

「ガバ!」
と彼は飛び起きた。 いつの間にか眠っていたのである。

「こんな簡単なことが、なぜ今まで解らなかっ たのだ!」
歯軋りするほどの後悔が彼を襲った。
「こんな当り前のことに、なぜ今まで気付かな かったのか!」
悔やんでも悔やんでも悔やみ切れない。地団駄 を踏むとはこのことだ。

しかし、
「悔やむより、今からやれることが何かないの か?」



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