小説「愛は6の感性」(38) 高田裕一 著

前号までのあらすじ
あらすじ
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「K」と呼ばれる店にはクラシック音楽の コレクションがあり、彼はいつも愛着のある席に座 る。
一年半ほど前に、彼は「K」でけい子と 知り合い、親しくなるが不本意な別れ方をする。帰 り道にある「スナック」でルミに出会い、その部屋 に通うようになる。
「K」でけい子邂逅し、その部屋を訪れると、ルミ について詰問された。
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彼はずっとルミに付きまとっていたケンという男に 脅された。引っ越してしまったけい子への繋がりを 彼は探した。 ルミと別れようとするが、出来ずに抱いてしまう。 彼はルミの肉体については知っている。一方、けい 子の存在は「6の感性」で感じていたのだ。
ルミと会わないと決心した彼は、けい子の居たアパ ートで隣の部屋の女に声を掛けられた。けい子が結 婚式を挙げるという。彼は混乱していた。


教会

そこに見知った顔があった、岩田である。旧知の間 柄のように、訳もなく懐かしく感じた。
「キミも結婚式に出るの?」
彼は疑いもなく尋ねた。
「誰の結婚式?」
「田中けい子さん」
「ええ?けい子さん、結婚しているんじゃ・・・」
「独身だと思う」
岩田は狼狽のあまり、一瞬言葉に窮したが、気を取 り直して尋ねた、
「エンゲージ・リングをしていたし・・・」
「確か、それは魔除けだと言ってた」
「決まった人がいるとも・・・」
「結婚相手のことだよ」
「誰?」
「石崎とかいう人」
「石崎?知らないなあ」
「大学時代の先輩らしい」

岩田の矢継ぎ早の質問に、彼は知る限りを逐一正直 に答えた。
しかし、
「結婚式はいつ?どこで?」
という問いに対してだけは、
「知らない」
と嘘を言った。第三者の彼が言うべきことではない と思ったのだ。
けい子について、岩田より彼のほうが優位であるこ とは明らかだった。しかしながら、今さらそんなこ とを思っても、空しさが募るだけだ。

次の日、彼は地図を頼りに、××教会を目指して渋 谷の町を歩いていた。特に目的が有る訳ではない。 ただ、何もせずにはいられなかったのだ。
「後一週間で何ができるというのか」
と、自問自答し続けても、結論が出るはずもなかっ た。

地図に間違いがなければ、この道は彼がよく通ると ころだ。しかし、キリスト教会など見かけたことが なかった。こんな商店や飲み屋だらけの繁華街に、 キリスト教会は相応しくない。
人込みを避けながら、両側に林立する雑居ビルの所 狭しと並ぶ看板に、視線を網羅させるのは、困難な 作業である。いつの間にか1ブロックを通り過ぎて しまった。

もう一度、さっきより注意深く最上階までの看板を 確認したが、やはり目的の教会を見つけることがで きなかった。
「済みません、××教会はどこでしょうか?」
ちょうど通りかかったブティックから、店員らしき 風体の人が出てきたので、問い掛けてみた。
「目の前ですよ」
指差された先は、一見して雑居ビル。一階は小綺麗 なビジネスホテルのロビーのようになっている。訝 しく思って、振り返って先ほどの店員を見ると、
「はい、そこです」
という返事。
見上げてみると3階ぐらいの位置 に、大きな十字架が掲げられていた。入り口の脇に 、
「渋谷××教会」
という金属プレートが確かに張られている。

店員に礼を言ってから、教会の入り口に近づく。ド アの透明ガラス越しに、内部を見透かして見るが、 見渡せる範囲に人影はない。
「ごめんください」
と言いながら、重いドアを開けた。通りの喧騒が彼 の声を掻き消す。
「こんにちは」
一際声を張り上げるが、やはり返事はない。左側の 受付のようなカウンターに人が居ないのを見届けて から、分厚いドアを背中に閉めた。

表通りのやかましさが嘘のように静まり返った。ホ ールの奥には階段が見えている。その脇に、
「チャペルは2階です」
という張り紙がしてある。
階段に近づいて行くと、何やら音楽らしいものが聞 こえてきた。
ホールの中央にまで手すりの張り出した階段。恐る 恐る上っていくに連れて、音楽の音色がはっきりし てくる。礼拝堂の入り口らしき扉に差し掛かったと き、
「パイプオルガンだ!」
と彼は確信した。



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